マナーエッセイ

買う理由…、買わない理由。

2011年9月3日

久しぶりに会った友人Y子と食事をしていたときのこと。販売職歴25年のキャリアを持つ彼女が面白いことを教えてくれた。 「ねぇ、お客様が”買わない理由”って四つあるのよ、知ってる?」…。

 

彼女によると、(1)営業マンやその会社、店員やそのお店を信頼できないとき。(2)自分にとっての欲しい物や必要性、明確なニーズがないとき。(3)勧められたものが自分にぴったりとは思えないとき。(4)今、ここで決めたくない。あわてて決めて後悔したくないと思うとき…、という四つだそうだ。
すなわち、販売員にとって大切なのは「売ること」ではなく、「お客様が自分の買わない理由を乗り越える手伝いをすること」なのだと教えてくれた。なるほどぉ~、仕事のセオリーに深みを感じる。ベテランの凄さってこういうところなんだろうなぁ…。

 

-買わない四つの理由。言われてみれば、私にも最近当てはまることがあった。
ファッション雑誌に載っていた新作バッグが気になって、お店に足を運んだときのことだ。結論から言うと、私は入店から約10秒で店を出た。何故って…?それは、ある店員の表情が原因。可愛らしいイメージのバッグブランドゆえ、若い女性が客層であることは認める。…が、その店員、入店した私(正確に言えば私の外見による推定年齢)を見て、”買う気のない客”=”接客対象外”と即断したらしく、それが完全に表情に出ていた。「いらっしゃいませ」と言われはしたが、私はお目当てのバッグをチラリと見ただけで「さよ~なら!」。

 

そして、その数日後。Appleユーザーの妹が初代iPadからiPad2にチェンジし、楽しそうにしていたのを見て、ミーハーの私も早速お店に行った。さすが直営Storeのスタッフだけあって、様々な機能やアプリについて詳細に説明してくれたのだが、あれ?何か変だ…、買う気満々だった私の気持ちが徐々に失せていくではないか…。結局、iPadは購入せず…。そう、スタッフの説明の中に、私は自分がバリバリ使いこなしている姿を想像できなかったからなのだ。『お客様は、買おうとしている製品の”機能”が知りたいのではなく、”自分にとってどう役立つのか”を知りたいのだ』と、以前、誰かから聞いたことがあるが、まさにその典型。

 

次は、ビジネススーツを買いに行ったときだった。出張や大勢の人の前に立つ機会が多い私は、シワになりにくいオーソドックスなスタイルのものが仕事服の定番。よって、夏はサマーウール素材と決めているのだが、販売員はイチ押しというトレンディなスーツをやたら勧めてくる。しかも麻素材だ…。「確かにオシャレで素敵ねぇ、でも出張で乗り物に長時間乗ることも多いから麻はシワになるし…」と、気を使ってやんわり断わったにも関わらず「大丈夫ですよぉ~、そんなにシワになりませんよぉ~」と、アナタ何を根拠に断言できますかっ?!と訊きたいぐらいだった。

 

この話を前述の友人Y子にしたところ、「そういう販売員は、お客様が何故買うのか知らないのよねぇ。お客様って、その商品が”いい”から買うのではなくて、”買いたい”から買うのだという根本がわかってないんだわぁ~」とのこと。「よい商品」というのは、”買いたい気持ち”になる一つの要因に過ぎないらしい。…納得。本当にそうだ…。

 

そして最後は、買う寸前で思い留まった話。某デパート内のジュエリーブティックに腕時計のコーナーがあるのだが、時計好きの私にとってはすこぶる危険なエリアだ。ショウケース内の商品たちから、「ワタシを買ってぇ~」とお願いされているように見えるから相当あぶない。
その日、不覚にも私はある時計に一目惚れしてしまった。それを瞬時に察した店員は、丁寧かつ親切、そしてこれ以上ないというぐらいの感じよさでアプローチしてくる。ボーナスも出たことだし、懐はちょいと豊か…、え~いっ、買うかっ!!…と決断し掛けた瞬間、もう一人の私が心の中でつぶやいたのだ。「また買うのぉ~?似たものを持ってるじゃん!ホントにいるのぉ~?」と…。結局、衝動買いして後悔したくないという冷静な気持ちがその時は勝った…。しかし、このエッセイを書きながら私は今悩んでいる。「やっぱり買おうかなぁ~、お店に行こうかなぁ~」と。理由は…、時計はもちろん、買わないことになっても最後まで感じのよい態度を崩さなかった販売員によるところが大きいように思う。

 

買うか、買わないか…。それは、きっと販売員がどれだけお客様側に立てるか、立てないか…ということなのだろう。

 

おわり