マナーエッセイ

謝って済むのであればマナーはいらない。

2009年7月1日

このエッセイ原稿の締め切りはゴールデンウィーク明けの翌週…。連休終了と同時に留めもなく出張の予定が入っている私は、「休み中に書いとかなきゃ、後がツライ…」と、強迫観念に駆られていた。
…よって、今年は旅行等の予定もないので、”書籍6冊読破”という当初からの目標とともに、このエッセイ原稿もノルマに加えて休みに突入したわけだ…。

 

さて初日。9時過ぎにゆっくり起床して新聞をダラダラ、朝食をダラダラ、TVをダラダラ、気がつけばお昼になっていた。
さぁ~ってと!そろそろ始めようか…って何を?…。読書か、原稿書きか…。  普通に物事のプライオリティを考えると、この場合は間違いなく原稿を書くことが優先されるべきだろう。だが、恥ずかしいことに『苦手なものは尽く後回しにする』という父親譲りの性格が邪魔するのだ。
私は生来”喋る”ことは大好きだが、”書く”ことはイマイチ…。この苦手意識が全身から積極性を奪っている感じで、なかなか机に向かえない。しかも自宅には他の誘惑が多過ぎて…。

 

え~いっ!!こうなったら外だ!…と、パソコンを抱えて徒歩5分、某外資系カフェ(…喫茶店と言っちゃいけません!)へ出向くことにした。
長居できそうな壁際に陣取り、グランデサイズのコーヒーをお供に戦闘開始だ。  しかし、…5分。…10分。…あれっ?  いつもなら本気モードに切り換わった瞬間、すぐに思いつくテーマやネタが、今回は出てこない。時間ばかりがイタズラに過ぎ、気持だけが焦る。…そんなときだった。

 

隣の席に50代後半とおぼしき一人のオジサマ(クールビズ姿のちょっとコワそうな…)が座った。書類を手荒く扱ったり、溜息交じりの舌打ちをしたりと、いかにも機嫌が悪そうだ。そのうち、待ち合わせだったのか、もう一人の男性が対面に座るや否や、例のオジサマは誰かへの不満を大声でぶちまけ始めた。

 

そもそも”博多弁”は、慣れない人にとっては、ケンカ腰に聞こえることがあるらしいが、内容もそうだと慣れている私でさえ「ちょっとぉ~」と言いたくなるぐらいの剣幕だった。周りのテーブルの人たちも気になるのか、こちらをチラチラ…。

 

しかしオジサマの怒りは留まるところを知らず、とうとう携帯電話で本人らしき人と直接ケンカを始めてしまった。「大体、アンタのつまらん態度が、こげなことになってしもたろがっ!」っと、こんな調子が結構続いたと思う。そして電話の相手に最後の捨てゼリフを吐いた後も、対面の男性に同じ勢いでその不満をぶつけていた。隣席の私は、原稿書きのスタートから躓いていたことも重なってイライラ…。

 

また不幸なことに店内が奥に広いゆえ、入り口近くにいるスタッフたちも、この状況は把握できていなかったようだ。
「少し静かにしていただけませんか?」と、何度言おうとしたことか…。でも悔しいほどの小心者。何の意思表示もできずに、ただ「早く出て行って!」とお祈りしつつ、パソコンと睨めっこしているのが精一杯だった。

 

そして、10分ぐらい経っただろうか…。私の願いが通じたのか、ひとしきり文句を言って気分が晴れたのか、オジサマが書類を片付けて帰り支度を始めた。
私は内心ホッとして、キーボードをポチポチ打っていたのだが、突然、席を立ったオジサマが「お嬢さん!」と一言。えっ?…オジョウサンン?…誰?…んっ?…。 恐る恐る顔を上げると、見事に目が合った。そしてオジサマ、「お嬢さん、うるさくしてゴメンな!おじさん、カッカするとキレてしもうてなぁ…。一生懸命仕事しとったのに、お嬢さん、ゴメンな!」と言って立ち去った。

 

久しぶりに心の底からびっくりした。老眼鏡をかけてパソコンに向かっていた私が”お嬢さん”と言われた…、しかも3回も。

 

さて、今回の教訓は次の三つだ…。
一. 言葉に出さなくても私のイライラは、相手に伝わっていたらしい。ちょっとした表情やしぐさに出たのか、コミュニケーションにおける非言語部分はとても恐い。
二. 周囲への迷惑を自ら感じ取っていたにも関わらず自粛しなかったオジサマ。最後に「ご免なさい」を言えば済むという考えであれば、それは改めるべき。
三. 世の中には”ふさわしい”という言葉がある。あまりにも現実とかけ離れた呼び方をされると、ヒトは一瞬バランス感覚を失ってしまう。

 

おわり