マナーエッセイ

自分軸で考えるか、それとも相手軸…?

2012年4月1日

「街中であなたが外国人観光客に親切にしてあげたとき、相手からThank you!と言われました。さて、その時あなたはどのように返答しますか?」

 

もし、こんな質問をされたなら、おそらく多くの人々は「You’re welcome(どういたしまして)」と、にこやかに答えるのではないだろうか。もちろん私もそうだ…、中学1年の英語の授業で習って以来、「サンキュー」ときたら「ユアウエルカム」だと、勝手に決め込んで人生を送ってきたわけだ、…が。

 

実は、学生の卒業旅行の引率で、初めてヨーロッパを訪れたときにロンドンのヒースロー空港で違う返答をされ、驚いたことがある。

 

飛行機が到着して荷物受取り場で待っていたときだ。学生たちには「自分の荷物を間違いなく取りなさいねっ!男子は女子が取るのを手伝ってあげてっ!」と言いながら、内心、私は自分が一番心配だった。”初欧州”に舞い上がり、人一倍ビッグサイズのスーツケースを持参してしまった結果、3日前のド・ゴール空港でも、その2日前のフィウミチーノ空港でも受け取り場で荷物を取るとき、大変な思いをしたからだ。しかも、旅行も日を追うごとに土産等でスーツケースはどんどん重くなる。

 

そんな不安な気持ちの中、コンベアに乗せられた荷物が順次流れ出してきた。国際便ゆえ、お客の数も荷物もハンパない(…若者っぽい表現)…、ここで上手く取れなかったら次のチャンスまで倍の時間がかかり、みんなに迷惑をかけてしまうことになる。気合いを入れて構えていたとき、「あっ、きたっ!」赤い大きなスーツケースが近づいてくる。そして目の前にきたとき、私が手をかけると同時に横にいた青い目の男性がスッとそれを持ち上げて、コンベアから下ろしてくれた。

 

うわぁっ、助かった!と思い、「Thank you!」と礼を言ったときだ。彼はニッコリ笑って、「My pleasure」とひと言…。いくら英語が苦手な私でもこれぐらいはわかる。”My pleasure =私の喜びです”ということは、素敵に訳すと「アナタのお役に立てて光栄です」みたいな感じになるのだろう。 

 

何とカッコイイ!!単純な私は、あれ以来、イギリスが大好きになった。(…って、あの男性がイギリス人かどうかの確証はどこにもないのだが、私は勝手に英国紳士だと思い込んでいる)

 

実はこの話、10年以上も前のことである。突然思い出したのには理由があって、最近、ある方からこういう話を聞いたのがきっかけだ。 「子どもを躾けるときに、日本では『人の嫌がることをしてはいけない』と教える傾向にあるが、欧米の親たちは『自分がしてほしいと思うことを人にしてあげなさい』と教育する」のだと…。

 

「~~してはいけない」に比べ、「~~してあげなさい」という表現は、子どもたちの日常生活において積極的な行動につながっていくであろうことは想像に難くない。あのイギリス人の男性が、「自分だって荷物が重たいときは手伝ってほしいよなぁ…」という思いと、純粋なレディー・ファースト精神から”My pleasure”なる言葉を言ったとしたら100%納得できる。やっぱり欧米人のほうが相手への心遣いをカタチに表すのが少し上手いのだろうか。 …いやいや、ちょっと待って。

 

「人の嫌がることをしてはいけない」という言葉をよ~く考えてみると、まずその人の嫌がることが理解できていなければならない。…ということは、その人の立場に立って物事を考えることができなければ完全にアウトだ。 日本人は、マナーを自分軸として考えるのではなく、常に相手軸で捉えることが大切だと説いているとも解釈できる。しかし、積極的に
“カタチ”に表すことも大事だ。 …そこで結論。

 

その時々で、欧米型と日本型両方の考えを使い分けていくのが理想!…だと思いません?

 

おわり