マナーエッセイ

気がつけば、顧客。

2013年7月13日

「顧客」という意味を辞書で調べてみると、「ひいきにしてくれる客」、「得意客」などと出てくる。また、「常連、馴染み客」なる言葉が類似語とされていて、要するに何回も来てくれるありがたいきゃくということだ。

 

さて、聞くところによると、美容院や化粧品業界は、この“顧客”確保が特に難しいらしい。お客の大半が女性であるこの業界、理由は女性特有の浮気性にあるというのだ。
“美”に対して飽くなき追求を続ける女性たちは雑誌や口コミに影響されやすく、新製品が出るたびに違う化粧品会社を渡り歩き、より似合うヘアスタイルを提供してくれそうな美容院を求めては“初回客”を繰り返す傾向にあるのだという。

 

だから店側としては会員カードなどを発行し、割引やプレゼントといった特典で何とかリピート客、ひいては顧客にしたいと頑張っているわけだ。
なるほどねぇ~、そういえば私の周りにも「同じ化粧水を2本続けて使ったことがない」とか、「行きつけの美容院がない」という女性たちが結構いるわぁ~、妙に納得。

 

しかし、実をいうと私はこの傾向に反して同じ美容院に約10年間通い続けている。担当してもらっているスタイリスト(店長)さんも同じ。そう!浮気をしてないってことだ・・・。

 

何故だろう、改めて考えてみた。

やっぱり、まずは確かな技術。ショートヘアの私は月1回のペースでカットしてもらうのだが、超ずぼらな性格に加え不器用で、ブロー、スタイリングといったことは全くもってできない・・・、にも関わらずドライヤーでチャチャっと乾かしただけで外出可能なスタイルにしてくれているのがスゴイ。店長はまるで“神の手”を持っているよう・・・。

でも、それだけではないのだ。この10年間、不思議と店長に担当してもらっている時間は、いつも心地よく過ごすことができた。カットしてもらいながら楽しくお喋りするときもあれば、全く会話がないときもある。その時々で状況は違うのに、何となくいつも居心地がいい・・・。

 

それは、おそらく店長の小さな配慮が理由だろう。例えば、私が雑誌を読んでいるとき。ページをめくる速度が割と速いときは頃合いを見て話しかけてくるが、逆に遅いときは絶対に話しかけてこない。確かにパラっ、パラっとページをめくるときは興味深い特集もなく、退屈しのぎに見ていることが多いので、面白い会話で楽しむほうが嬉しいが、ゆっくり見ているときは記事や写真に集中したいとき・・・、だから放っておいてほしい。

 

店長は個々の場面において、私の小さな心情を敏感に感じ取り的確な対応をしてくれる。おそらく、お客様みんなに対してもそうなのだろう・・・、だからあの人にはたくさんの“顧客”がつくのだ。

 

他の追随を許さない高度なスキルと、常に相手の立場を汲み取ることのできるマインドを持ち合わせたトップスタイリスト・・・、鬼に金棒って感じだ。

 

規模的に割と大きいこの店は、若いスタッフも多く、今年、美容学校を卒業してきたばかりのフレッシャーズも数人配属されてきたようだ。こんな素晴らしい店長のもとで自己成長を図っていけるなんて幸せそのものだと思うが、彼らはそれをちゃんと気づけるだろうか・・・。

 

先日、店長にカットしてもらった後、20代前半のスタッフがトリートメントを担当してくれたのだが、私が見ていた旅行雑誌の写真が目に入ったらしく、「行ってみたいですよねぇ~、超人気があるらしいですよねぇ~」としきりにアプローチしてきた。彼女は、一生懸命コミュニケーションを取りたかったのだろう・・・。私も教員の端くれだ。修行途中の若者を拒絶するのはあまりにもかわいそうだったので、「そうねぇ~、行ってみたいねぇ」と答えながら、本当は記事に集中したい自分と葛藤していた。

 

彼女たちは時々勉強のため、店長が実際にお客様の髪をカットしているところを後ろから見学することがある。

 

そのとき、技術だけではなく、“サービス業”従事者として、相手と向き合うとはどういうことなのかを店長の後ろ姿から感じ取って日々の成長につなげてほしいなぁ・・、とオバさんは心から願ってやまない。