マナーエッセイ

手紙の宛名、返信ハガキ…、どう書く??

2010年3月1日

かなり前のことだが、就職活動中の男子学生に「先生!”オナカ”って何ですか?」と訊かれたことがあった。えっ?オナカ?…、私は腹部を手で押えて「ココのことじゃないの?」…。すると彼、「違いますよぉ~、履歴書とか送るときに会社名の下に書く‥アレですよ、オナカって。」…▲◎×?!■…。おいっ!そりゃ、”オナカ”じゃなくて、”オンチュウ”だっ!

 

当時、彼のクラスでビジネスマナー科目を担当していたのは私。若者っぽく言うと、自分の指導力のなさに”超ヘコんだ”ことを今でも覚えている。

 

さて、この「御中」だが、通常は団体宛に手紙を出す場合、社名等の下に書く敬称として使われる言葉であることは皆さんもご存じだろう。

 

ところが先日、知人からこんな質問を受けた。「”御中”って会社名の下じゃなくて、横に書かなきゃいけないんでしょ?」と。

 

私は驚いて、個人で言う”様”と同じ意味ゆえ、”御中”も敬称として社名の真下に書くべきであると答えたのだが、彼女は最近受講したマナー研修の講師が「横に書く」と断言したというのだ。

 

マナーはルールと違って、ひとつの事柄について様々な解釈があり、その分、”形”も複数存在したりするものだが、この「御中」もどうやらその典型のようだ。

 

じゃぁ、なぜ横に? …おそらく理由はこうだろう。
そもそも「御中」の”中”とは、「あの連中がさぁ~」みたいな時に使う”中”と同じで、「その中にいる人たち」という意味。よって、その「中」に尊敬語の”御”をつけた言葉が”御中”だと言われている。「そこに集まっている皆様」ということで、すなわち手紙を出す際、「担当者がわからないので、その中のどなたかが開封してください」という意味になる。

 

…ということは、これは厳密に言うと敬称ではなく、”親展”や”在中”などのように宛名の左下に書いて依頼や注意を促す『脇付』のひとつであるとも言えるわけだ。

 

なるほどねぇ…、それで横に書くという説もあるのか。

 

ただ、もう一つ付け加えておくと、脇付には敬意を表す言葉もあり、直接本人に送付するのは恐れ多いので謙譲の気持ちをもって、敬称(様・先生)の左横に小さめの字で「侍従(侍史)や机(机下)に送ります」などと書く言葉がその代表例だ。
本来、「御中」も脇付ではあるが、敬意と依頼(注意)両面の意味を持っていたので、最近では敬意の意味合いから、敬称として扱われるほうが一般的になったと言われている。

 

う~ん、…ということは、やっぱり宛名の下に書くほうがいいんじゃないかな…と私は思うのだが…、かと言って、左横に書いても間違いではないんだなぁ、これが…。

 

実は、このように複数の解釈があるマナーは他にも結構あって、例えば返信ハガキを出すとき、通常なら「行」「御」などの字を2本線で消して書き直す。それが結婚式招待状の返信ハガキとなると…。

 

①字を消すときは2本線でなく1本線で。(結婚という”寿”は2回もないほうがいい。さらに2という数字は”割り切れる”ので縁起がわるい。…かと思えば反対に”二人・ペア”だから2という数字はよいという説もある)

 

②字を消すときは線でなく”寿”の字を書く。(線で”消す”のは縁起が悪いので、縁起のよい字で上書きをする。しかし、上書きは字が重なってしまい、”寿”が汚れるからダメという考えもある)

 

③”寿”の字は朱書きにする。(赤は慶事の色だから。…反対に、赤は血や呪いをイメージさせるのでよくない、という人もいる)

 

④訂正したい字は消さず横に「”」を入れる。
(そもそも相手が書いた字を消したり上書きするのは失礼なので、訂正したい字の横に「”」を加え、その横に新たな字を書く。しかし、自分が出すハガキに自分への尊敬表現が残っているのはおかしいので、その類の字はしっかり消すべき、という考えもある)

 

ほらねっ!皆さん、マナーって賛否両論、一筋縄ではいかないっていうか、理由を言い始めたらキリがないこと、た~くさんあるんです。

 

だから、どうあるべきか…。

 

結局は、相手への気持ちが大切なわけで、そのカタチの表現としては、大多数の人が「~こうだよねぇ」と認識しているものでいいんじゃないでしょうかぁ?

 

おわり